大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)1213号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、原告が矢吹海運に貨物自動車運転手として勤務し、被告がクレーン車等の賃貸を業とする会社であることは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると次の事実が認められる。
(一)、昭和四三年三月二二日午前八時過ごろ矢吹海運の業務としてトレーラーを牽引した貨物自動車に長さ約一四メートル、重さ約12.3トンの橋桁用鋼材を積み泉北港に向う途中、大阪府泉大津市松元浜町先泉北港岸壁において、トレーラーが傾いて鋼材がずり落ちたため、矢吹海運において、藤本組を通じ被告に対し右鋼材の積み直し作業をするためのクレーン車とこれが運転手の賃貸を依頼し、これに応じた被告がクレーン車とその運転手の西寅孝夫及び小川庄三を現場に差し向けたこと
(二)、右鋼材の積み直し作業は、当時矢吹海運の荷役や運転手の指揮監督をする立場にあつた同会社課長小野金栄の指図に基づき行なわれ、同人と原告とが、矢吹海運の用意したワイヤーロープを右鋼材の二ケ所に掛けて(玉掛けという)、クレーン車のフック(釣り金具)に掛け、小野の合図で、西寅運転のクレーン車が鋼材をトレーラーの荷台上1.5メートル位の高さまで吊り上げて静止し、原告がトレーラーの位置を正常に戻したのち、原告は鋼材を荷台上に正しく卸させるよう指示するべく前記貨物自動車運転台屋根に登り、次いで西寅がクレーン車を操作して鋼材を荷台上に卸し始めたときワイヤーロープが切れて鋼材が右自動車の荷台に落下し、その衝撃で原告が地上にはね落とされ頭部外傷(Ⅲ型)、腰部打撲の傷害を受けたこと
以上の事実が認められ(前記日時場所で原告に傷害事故の生じた点は被告も争わない)、<反証排斥―略>他に右認定を動かす証拠はない。
二、よつて本件事故の原因につき検討する。原告及び補助参加人は、本件事故は、クレーン車を操作していた西寅が急激に鋼材を吊り上げ、さらに降下させてブレーキを踏むなどの運転上の過失により生じたものであると主張し、証人<略>もこれに沿う旨の供述をするけれども、右各供述はにわかに信用できず、却つて前記認定のように、西寅が鋼材を荷台上に吊り上げて静止している間にトレーラーの位置が正され、鋼材を荷台に卸そうとしたときロープが切れたのであつて、他に、西寅がクレーンを急激に操作したことがロープを切断する直接の原因となつたことを認めるに足る証拠はない。
そして<証拠>を総合すると、12.3トンの重さのものを吊り上げるには少なくとも直経一八ミリ以上のワイヤーロープを使用しないと切断の危険があり、本件鋼材のように鋭利な角のあるものを吊り上げるときはその角にあてものをしないとロープを損傷する虞があるところ、本件作業に使用したロープは直径一八ミリに満たない小さいもので、玉掛のさい本件鋼材の鋭利な角にあてものもしていなかつたこと、西寅はクレーン車の運転免許を持ち、吊り荷の重さ大きさによつてどれ程の太さのロープが安全であるかを熟知していたので、本件ロープが以上のように荷重に比し細いものであることを知り乍ら、漫然と右ロープを使用したまゝクレーン車を操作していたため、本件鋼材の荷重に耐え切れず右ロープが切断するに至つたものであることが認められ、<反証排斥―略>また前掲各証拠(措信しない部分を除く)によると、本件鋼材の積み直し作業は、矢吹海運の従業員と被告方従業員たる西寅らとの共同作業であり、その作業の全般的な指揮をとつていたのは矢吹海運の小野課長であるが、同課長としては、右作業が安全に行なわれるよう配慮すべき注意義務があつたと解するのが相当で、矢吹海運側で用意した本件ロープが荷重に耐える安全なものであるか否かについてもこれを確認しておく義務があつたというべきであるが、同人がこの点について確認を怠つて不用意にも右ロープを使用して右鋼材の積み直し作業を始めさせたことも本件事故の原因であつたと解せざるを得ない。この場合西寅がクレーン車操作の責任者ないし専門家として右ロープの安全性について専門的知識を有する立場にあつたのは否定できないが、矢吹海運もその業務の性質からワイヤーロープを使つて重量物の積み卸しを日常行つていたうえ本件ロープは自己が提供したのであるから、その安全性につき確認のうえこれを使用すべき注意義務があつたというべきで、他方矢吹海運小野課長に以上の過失があつたとしても、クレーン車操作の運転手たる西寅の前記注意義務が失なわれるものではないから、本件事故は、註文者たる矢吹海運の指図につき過失があつたので被告側に事故の責任はない旨の被告の抗弁は採用できない。
以上のように、本件事故は、被告の業務を執行中、その従業員たる西寅が本件ロープの安全性に疑問を持ちながら敢てこれを使用してクレーン車を操作していた過失と、本件鋼材の積み直し作業全般の指揮をしていた矢吹海運小野課長が、同会社提供のロープの安全性につきこれが確認を怠つてその使用をさせた過失と相俟ち生じたものというべきであるから、被告は矢吹海運とともに共同不法行為者として各自本件事故により原告の蒙つた後記損害を賠償する義務があるというべきである。 (首藤武兵)